畑さんの話。

知り合いのじーさんが亡くなった。
昔うちの家具屋で職人として働いてた人。畑(はた)さん。
元々は３年前に死んだ俺のじーさんの、戦時中の頃からの親友で兄貴分みたいな人で、じーさんと一緒にうちの家具屋を始めた人。
なぜか弟分であるはずの俺のじーさんが社長だったんだが。

俺がガキだった頃はまだうちの職場で働いていて、母親が赤ん坊である俺を連れて職場に行っていた頃から、よく遊んでもらってました。
陽気で面白いおじいちゃんで、楽しかったな。
家に遊びに行くこともあったし、お正月にはお年玉とかもらってたし。
釣りに連れてってくれたりね。
小学生の時、畑さんが自分の釣竿を１本俺にくれたことがあったんだが、その時は本当に嬉しかったな。
初めての自分の竿。今でもその時の事は覚えてる。

俺が中学になるくらいの時にはもう歳で、思うように身体も動かなくなっちゃったみたいで、職人は引退してね。
それでもたまに会った時は相変わらず面白おじいちゃんでした。
１０年くらい前からは、もう１人では歩けないくらいになっちゃったらしい。
会える機会もめっきり無くなったんだけど。
３年前、俺のじーさんが死んだ時。息子さんに連れられて久しぶりに家に来てくれた。
ろくに動かせないはずの身体からは想像できないような勢いで、棺桶に入れられたじーさんのもとにはいずってきて。
死んでるじーさんに「何やってんだよおい！目ぇ開けろよ！何でお前が俺より先に行っちまうんだよ。そんな冗談やめてくれよ・・」なんて言い始めた。
こらえられなくて、俺は泣いてしまいました。
そして俺のところにやってきて「お前のじーさんはなぁ、いい奴だったぞ。本当にいい奴だったぞ」と何度も何度も言いました。

畑さんのお通夜、お葬式。俺は両方行ってない。
むろん俺の両親は行ったが、俺は仕事とかいろいろあって行かなかった。
俺はここに書けばいいんじゃないかな？なんて思います。
いろんな事を覚えてるし、思い出せるしね。