地黒の天パ

地元の同級生の男が小田原を離れるってんで、軽い送別会をしました。
まぁ、いつものようにみんなで酒を飲んだだけなんだけど。

そいつの家はなんつーか、普通の家庭とはちょっと違ったような家業でね。
親父さんがその仕事をしてたんだが、去年不幸にもお亡くなりになって。
俺も散々世話になった人だったんだが。
そいつは家を出て違う仕事をしていて。しかし親父さんの死をきっかけにして家に戻ってきて。
家業を継ぐことに、決めた。
そして、それの修行のために。しばらくは岡山に住み込まなければならないって。
起床、就寝、食事なども管理され、基本１年間は修行を続ける。

詳しくは書かないが(と言って、とりたてて秘密にしてる訳じゃないけど)そいつの家業は一風変わったもんだから。
まぁ小中のバカなガキだった俺らは、それをネタにそいつをからかったりもしたもんだ。
そいつも冗談半分にムキんなって言い返したりして、笑い合っていたんだが、１０代の少年だったそいつは、人知れず傷ついてたりしたかもしれない。
今でも俺はそいつをからかったりするが、頭のいいそいつは俺の悪ふざけをじゅうぶん理解して、もう１つユーモアや皮肉を乗っけて返してくる。
ささやかな送別会も、そんな具合でした。

俺がそいつの立場だったら、きっと己の家庭を呪っていた、と思う。
子供の頃はからかわれ、将来は継がなきゃならない、つー状況を。
はっきり言えば、そいつがこれから修行する仕事は、万人に好かれる商売じゃない。
継ぐ、継がない、は、最終的には本人次第であっただろうが、そこはやはり、目に見えない力、プレッシャーってのがあったはずだ。
そいつほどではないが、家の仕事をしている俺には。解る。
そいつが本当にやりたかった仕事も、俺は知ってる。

職業選択の自由なんて。そんなもんねぇような奴もいる。
てめぇで選んだ仕事のくせに、グズグズ言ってるような奴もいるが。
「興味ある仕事」なんてまったく別次元のところで、自分の仕事を選ぶ奴が、いる。

口じゃ「まったくよ～」なんて言いながら、そいつは笑って。不安なんて一切無いような。とくにためらってないような、そんな感じだった。
しかし実際は思い切り悩んで。自分の事だけじゃなく、自分以外の事まで真剣に考えて、出した決断なんだと思います。俺にはとても真似できない。
すげーだろ？俺の友達。
とにかく、まぁ、なんだ。普通の事しか言えないが、頑張れよー。
んで。嫌んなったら、いつでも戻ってこいって。